「弁護士業界」勝手に解説-「労働事件」(3)・最終回 [「弁護士業界」勝手に解説]
前回までの解説はこちら 労働問題(1)・労働問題(2)
労働事件について従業員から何らかの請求を受ける可能性があるという事態は、使用者にとっては、それだけ経営上のリスクを負っているということになります。リスクを数値化するのは簡単ではありませんが、リスク管理の観点からリスクの数値化を考えてみると、以下のような計算式が成り立ちます。
リスクの大きさ=予想される支払額×請求を起こされる確率
巨大地震のように損害額が甚大でも、発生の確率がほとんどゼロに近ければリスクは小さいということになりますし、数百万円の請求だとしても、ほぼ確実に請求され、その請求が認められてしまうということであれば、そのリスクは大きいということになるわけです。(前回解説したように、労働事件はかなりの割合で労働者側に分があります。)前回紹介した未払い残業代の問題を例にとると、一件一件の単価は数十万円から2~300万円程度の事案が多く、これまでは請求を起こされる確率も高くなかったので、リスクとしてはさほど大きなものではありませんでしたが、昨今の残業代請求を巡る状況を考えると、請求される確率は確実に高まっており、それだけリスクも大きなものになってきていると言えます。
したがって、未払い残業代の問題を抱えているのであれば、早期に対策を講じる必要があるのですが、そのような案件の相談に来られる企業の社長は、「残業代をまともに支払っていては会社が潰れてしまいます。」などと言って、対策には消極的です。
私は、企業向けの講演をする際に、様々な経営上のリスクのことを「貸借対照表上に現れていない負債」と表現することがあるのですが、負債が嵩んで支払えなくなれば会社が倒産してしまうのと同様、リスクを放置して巨大化した状態でそのリスクが現実化したときには会社の存続も困難になってしまうのです。
良好な労使関係にある企業であれば、会社の状態を理解する従業員が会社の首を絞めるような無理難題を突き付けることはないと思われるかもしれませんが、従業員自身も収入に余裕のない状態で、周囲から未払いの残業代を請求してうまく行ったという話が聞こえてくるようになると、正当な権利を行使しないことを期待できると考えるのは非常に危険なことです。
●ではどうしたらよいのか?~マスダの考え
それではどうすれば良いのかということなのですが、恒常的に残業しなければ業務が回らないというのであれば、会社の利益を削ってでもきちんと残業代を支払うか、従業員を補充するか、あるいは、根本的な給与体系を変更する以外に方法はないでしょう。
特に、残業代をきちんと支払ったら利益が出せないという会社であれば、従業員にきちんと会社の実情を説明して、残業代算定の基礎となる給与部分の減額を実施しなければならなくなります。従業員に対する説明も、通り一遍の「経営が苦しく支払ができないから」という程度のことでは納得してもらえないでしょう。(社長が高級車を乗り回し、接待と称して毎日のように飲食やゴルフに興じているような会社であれば、従業員が聞いてくれるはずもないので、説明の前には、経営者自身が自らの襟を正しておく必要があります。)
また、そこまでの協力をお願いするときには、会社側も従業員に財務状況をきちんと明らかにして、従業員自身が経営者の目線で考えることができるための情報を提供する必要があります。加えて、従業員に会社の経理内容を理解できるような教育をすることも必要になるでしょう。
こうすることで初めて、従業員の理解を得られるようになり、残業代のリスク(貸借対照表に載らない債務)を削減することができるのですが、実は、経営上それ以上の効果が期待できます。
良く経営者は、「うちの社員は経営者の気持ちを理解してくれない。」とか「経営者の視点を持って仕事をする社員が育たない。」といった愚痴を言いますが、それは、経営者と同じ情報を持っていないのですから、当然のことです。
ところが、従業員に経営者の持っている情報のかなりの部分を公開することによって、従業員自身が経営者的な視点で会社の現状を理解しようとしますので、会社の問題点なども、自分の問題として改善の方向を検討するようになってくれます。
企業のようなピラミッド型組織においては、経営の根幹にかかわる情報はトップに集中し、末端に行くほど少ない情報しか得られなくなります。したがって、自らが必要とする情報を得たいと思ったら上司に提供してもらうしかなくなるので、情報を持つということが権力の源泉になるということがあります。
しかし、そのような経営を続けていては、企業経営を左右する意見は、数多くいる従業員のごく一部の者からしか上がってこないことになります。最終的な判断はトップが責任を持って行うとしても、その判断に至るプロセスとして多くの意見を吸い上げることは大事なことです。
そのような経営の姿勢が、従業員の会社への帰属意識を高めるとともに、従業員自身に経営者の視点を学ばせる格好の機会となるのです。
如何でしょうか、経営者の皆さん。苦しい選択かもしれませんが、その苦しみの先に企業の繁栄があるとしたら、トライしてみる価値は十分にあると思います。
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労働問題に関する解説は今回で終了とさせていただきます。
次回からは、ほとんどの弁護士が年に数件は受任する離婚事件について解説していきたいと思います。
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「弁護士業界」勝手に解説-「労働事件」(2) [「弁護士業界」勝手に解説]
労働事件の第2回は、これから事件の増加が予想されている残業代などの未払賃金請求についてです。
前回までの記事はこちら
弁護士業界には、これまでも何度か特定の業務が業界全体を潤す受任事件の「トレンド」があったと言われています。
●これまでの受任事件のトレンドは?
最初のトレンドは、私が登録する前のことで、「交通事故」が弁護士の大きな収入源になった時代があったということです。その当時の実態は、私自身もよく分かっていないので深入りはしませんが、「任意保険に示談代行の特約がなかった時代」であれば、交通事故が起きて当事者間で話ができない場合には、被害者側だけでなく加害者側も弁護士を依頼することになり、「1件の交通事故のたびに2人の弁護士が事件を受任することになるので、その需要がかなり大きかった」ということかなと思っています。
次のトレンドが、これまで解説してきた過払バブルです。この類型は、交通事故とは違って、弁護士本人は業務のごく一部に関与すれば足りることから、弁護士の事件処理のスタイルを大きく変容させてしまった感があります。弁護士に登録した時の勤務先がこの手の事件しか扱わないような法律事務所であれば、自分で事件を処理するという習慣すら身に付ける機会が無いので、若手弁護士の弁護士業務に対する意識の変化が起こるのではないかとの危惧感はぬぐえないところがあります。
そして、この過払バブルも一段落しそうになってきていることから、弁護士業界は次のトレンドを見つけようとしている訳です。その背景に、弁護士の大量増加に伴う個々の弁護士の収入低下という問題があることはこれまでも解説してきましたので、ここでは割愛いたします。
●さて、次のトレンドは-労働事件
私は、札幌弁護士会の業務改革推進委員会委員長だった2年間、日弁連の弁護士業務改革委員会にも副委員長として参加していましたが、この委員会では弁護士の新しい業務分野の開拓も議論していました。その中では、地方自治体の業務への関与や交通事故の損害賠償にもう一度力を入れるべきなどといった議論もなされていましたが、近年では残業代や休日出勤手当などの未払い賃金の問題が、これから伸びが期待できる業務分野として注目されるようになっています。
これまでも未払い賃金の問題がなかったわけではないのに、どうして最近になってこの分野に注目が集まるようになったのでしょうか。その理由について、正確な知識を持ち合わせている訳ではないので推測になってしまいますが、一つのきっかけになったのは、いわゆる「名ばかり管理職」の裁判のニュースだったような気がします。
***マスダのちょっぴり解説***
「名ばかり管理職」という呼び方を一般的にしたのは、2008年1月28日の東京地裁判決でした。これは、マクドナルドの店長が、実質的な管理職としての権限を与えられていなかったにもかかわらず、店長という管理職の肩書があるために残業代を支給してもらえず、そのことが不当であるということで争われた裁判ですが、労働基準法第41条が、「この章(第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇)、第6章(年少者)及び第6章の2(女性)で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者(その中に「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」という規定があります。)については適用しない。」と規定していることから、これまでは肩書上管理職とされた労働者は、残業代を受けられないのは当たり前というのが多くの労働者の認識だった訳です。
しかし、従業員に「部長、課長、係長」などの肩書を与え、どの範囲の職制を管理職と呼ぶかは、会社が自由に決めることができます。したがって、労働基準法第41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」と管理職の肩書を持っている従業員は、必ずしもイコールではないということはむしろ当然のことなのですが、この判決によってそれが一般の人の知るところとなりました。
労働法上の管理職であれば、前述のように労働時間等に関する規定が除外されているのですから、いつ休もうが1日に何時間働こうが本人の自由であり、賃金は働いた労働時間にかかわらず定額であるということになるはずですが、これまではそのような意識もなく、会社が「管理職」と呼ぶだけで残業代は払われないと思いこまれていた訳です。
多くの外食産業やコンビニエンスストアその他の小売業界でも同様の実態がありましたので、この判決を機に自主的に未払の残業代などを支払うという流れになってきました。言ってみれば、雇用者側の無条件降伏という事態(とはいっても、計算上支給されるべき全額ではなかったと思いますが…。)になって、労働者側は残業代の未払をほぼ確実に回収できるということになったのです。
そうすると、現実の労働時間の立証と未払い賃金の細かな計算さえできればあとはあまり苦労せずに回収が図れることになりますので、業務としての困難性は少なく、相応の報酬も見込めるということで、そのような実態に目を付けた弁護士やその他の関連士業者が、積極的にこの分野を取り込もうとして宣伝を始め、名ばかり管理職以外の社員の人についても、未払の残業代を請求するようになっているわけです。
残業代の請求は、勤務実態が証明できればかなりの確率で請求が認められます。逆にいうと、雇用者側にとっては、未払の残業代があるということは、それだけの債務を抱えているのと同じということにもなります。
そのような事態が健全な経営といえないことは明らかですから、これを是正することが求められ、そのためには賃金体系の根本的な見直しを行う必要すら出てきます。しかし、賃金体系の見直しをするためには、従業員の理解を得なければなりませんが、その手続きが余りに大変なので多くの経営者は手をこまねいている状態のままです。
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残業代を巡る弁護士側の状況はご理解いただけたと思いますので、次回は、コンサル弁護士らしく雇用者側の対策という点から解説してみたいと思います。
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「弁護士業界」勝手に解説-「労働事件」(1) [「弁護士業界」勝手に解説]
と、ここまで書いてきましたが、私自身は企業において労使対立があるというのは、それだけで不健全な状態だと思っているので、できれば労使対立が起こらないような企業経営をしていただきたいし、そのためのアドバイザーとして弁護士が力を発揮できる場面は数多くあるのではないかと思っています。
その意味で、経営者の皆さんには、労働側と深刻な対立になる、ならないにかかわらず、経営課題を検討する際には、弁護士のアドバイスを日常的に受けるような習慣をつけるべきだということを申し上げたいのです。
***マスダの挑戦~企業経営支援のために***
実は、私が平成20年に中小企業診断士の資格を取得して登録した目的も、企業経営者の皆さんが日常的に相談するといっても、そもそも事件になっていないのに弁護士に企業経営の相談をすることができるのかという違和感を取り除いてもらう目的からでした。つまり、私が企業経営の支援を志向しているというメッセージのつもりで登録したのです。
そのための受験勉強は、平成18年の12月から開始して、19年の8月上旬に択一試験、10月下旬に筆記試験、12月中旬に最後の口述試験を受けて、年末に合格発表にたどり着いたので、まるまる一年がかりの挑戦でした。50歳になってからここまで一生懸命勉強することになるとは、受験勉強を始めるまで考えてもいなかったのですが、思いのほか大変な試験で、1年で合格できなければやめようと思って挑戦した結果の合格でした。
今回は合格体験記ではないので、これ以上試験のことは書きませんが、残念ながら中小企業診断士の資格を取っただけでは、企業経営者の方たちから日常的に相談したいというリクエストをいただくには至っていません。やはり、弁護士が企業経営に関与する価値をこれからも積極的に発信していかなければ、弁護士に対する企業側の意識が変わることはないのだと思っています。
※マスダの中小企業診断士資格取得後の奮闘記はこちら
話を労使の問題に戻しますが、私自身は労使間紛争には経営者側で関与することが多いです。その理由は、弁護士経験が長くなったせいで企業の顧問先もある程度の数になってきたことや、ロータリークラブなどで経営者の知り合いが増えると、自然とその紹介などで経営者側の相談が多くなるからです。
一方で、労働組合に関係の深い弁護士などは、受任する労働事件の大半は労働者側の事件ということになります。組合に加入している労働者の人たちであれば、事件を依頼するのもその組合の関係の弁護士ということになりますし、組合に入っていなくても、労働者側の事件を数多く扱っているということがクチコミなどで広がって、受任が増えることになるからです。
もちろん、経営者側で代理人をすることが多い弁護士が労働者の代理人をしてはいけないということはありませんので、私自身が労働者側の代理人になることもあります。
●マスダの見解~労働事件の傾向
そんな経験の中で、労使の争いを見たときに思うのは、弁護士のところに持ち込まれる事件は、かなりの割合で使用者側が負け筋だということです。それは、先ほどの話にも重なりますが、経営者が労働者に対する懲戒や解雇の処分をするときに、きちんと段取りを踏んで手続をすることを怠ったり、不用意な言動が法律違反と評価されたりする事実を、後から修正することがとても難しいからです。
そのような事態を回避するためにも、日常的に弁護士に相談できる体制を用意しておく必要があるのですが、弁護士の側も顧問料という固定収入が得られれば事務所の経営が安定するということがあるので、企業経営の皆さんには「顧問契約をしていつでも弁護士に相談できる体制を作っていただくことが、お互いにプラスになりますよ」とお勧めしている訳です。
それと、相談を受けて大変残念なこともあります。経営者の中には労働者の権利に対してあまりにも無理解な人もいるのです。そのような経営者に対しては、弁護士の側も法律上無理な主張を改めるよう説得するわけですが、どんなに説明しても理解してくれない経営者がいるのも事実です。
そのようなときに弁護士が選択するのは、依頼者の意思に基づいて自分が納得できない争い方をしてしまうのか、それとも、代理人の就任を断るかです。事務所の経営を考えると依頼を断るのは勇気のいることですが、いくら説得しても法に基づいた対応をしてくれないのであれば、その依頼を断るのも弁護士の矜持です。
弁護士法1条には、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定されています。たとえ使用者側から相談を受けていたとしても、労働者の基本的権利を侵害することが明らかな依頼を受けるのは、この使命を果たすことにならないということは、弁護士の側も自覚しておくべきです。
このように、弁護士の所に持ち込まれる労働事件は、経営側負け筋の事件が多い訳ですが、同じ負け筋の事件でも0対100で負けるのか、20対80で負けるのかではダメージが全く違います。そこで、経営側の代理人となったときには、うまく負けるのも弁護士の腕だということは是非ご理解いただきたいところです。
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次回は、労働事件のなかでも、これから事件の増加が予想されている残業代などの未払賃金請求について解説したいと思います。
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「弁護士業界」勝手に解説-「業際問題」(5・最終回) [「弁護士業界」勝手に解説]
クレジットやサラ金を対象とした債務整理事件が既に下火になってきているということはすでに何度かお伝えしてきているとおりですが、法曹関係者の関心は、債務整理事件が下火になった後の収入源となる事件のトレンドは何かというところに移っています。
知人の司法書士から、多くの事務所が債務整理の宣伝をしなくなったけれども、競争相手が減ったせいか、積極的に宣伝している事務所にはいまだに結構な数の依頼が来ているという話を聞いたこともありますが、グレーゾーン金利の撤廃から年数が経過すれば、必然的に事件は無くなりますので、業務の中心をいかにスムースにシフトさせるかは、事務所経営にとっても大事な視点です。
そこで注目されている事件の一つが相続事件という訳です。
●相続事件はどこまで扱える?
相続事件の分野に進出しているのは行政書士・司法書士に加えて税理士といった士業の人たちですが、これらの士業者は家庭裁判所の代理権を持っている訳ではないので、相続事件の相談を受けることが法的に全く問題ないとも言い切れないのですが、彼らはむしろ積極的に相続事件を扱うようになっています。
司法書士は、被相続人が不動産を所有したまま亡くなった場合の相続登記や遺産分割協議書の作成、事件当事者が本人として家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる際の申立書の作成代行はできますので、それらの業務に関連して一般の方から相談を受けるということは以前から行っていました。
税理士も、相続となると相続税の問題が発生する可能性があるので、相続に関する相談を受けることは日常的にあります。顧問先の企業の関係で事業承継のアドバイスを求められることもあり、そのプロセスに相続が絡むことも少なくありません。
そういう意味で、もともと司法書士や税理士は相続事件となじみがあったわけですが、昨今ではこれまでの相談の枠を超えて、事実上代理人として行動しているのではないかと思しき事例が増えてきています。
例えば、司法書士が遺産分割協議書の作成をすることは良いのですが、ここで認められているのは、関係者が遺産分割の中身について合意したものを書面化するために作成することです。当事者間の遺産分割協議で話が付いていないのに、一方当事者の意向に基づいて遺産分割協議書の形に書面化したものを相手に送りつけて、署名捺印しなければ調停等の法的手続をすることになるという通知をすることは、文書作成の枠を超えて相手方との交渉そのものになりますので、司法書士の職務権限外ということになります。
このような業務は、実は行政書士も参入してきていますが、行政書士の法律事務取扱には司法書士よりもはるかに限定的な権限しか与えられていませんので、行政書士が同様の行為を行った場合にはさらに違法と評価される可能性が高くなります。
税理士に関しては、私自身も、相手方当事者から依頼されたという税理士から、相続税申告のために相続財産の調査に協力して欲しいとの連絡を受けたことがあります。このときには、相続財産確定のために限定して協力はしましたが、それ以上の交渉にわたることに関しては、当該税理士を介しては対応しないと明言したので、その後この税理士は事件から全く手を引いてしまいました。
一方で、合法的に対処できる案件として、司法書士が遺言執行者に就任するような場合があります。実は遺言執行者については、法的に資格制限がある訳ではなく、誰でもなれることになっていて、司法書士に限らず、行政書士や税理士だってなることは可能です。その報酬も、遺言書に定めてあれば合法的に取得することができます。
そのため、インターネットで遺言書に関する検索をしたときに、検索上位に来るのはほとんどが行政書士で、たまに司法書士がヒットするような状況になっています。そんな状況があるので、遺言書の作成は行政書士の業務であって、弁護士はあまり行わないと勘違いしている人もいるほどです。
遺言書作成に関しても、相続人を含めた利害の調整や遺言者の真意を確認した遺言書の作成をするなど、専門的知識を必要とする点も少なくありません。その点は措くとしても、遺言執行にも相続財産の換価を巡るトラブルや遺言執行者自身と相続人とのトラブルなどもあります。相続事件ともなれば、扱う相続財産の額が大きくなることもありますので、信頼のおける法的知識をもった有資格者に委任する方がトラブルを回避できる可能性は高いと思いますが、いかがなものでしょうか。
ちなみに、多くの弁護士は、事件に関して何らかのミスをしたときに賠償できるよう弁護士賠償保険に加入しています。遺言執行者も弁護士の本来業務として受任することになりますので、この保険でカバーされることになります。他の士業がどのような賠償保険に加入しているのかまでは承知していませんが、仮にそれらの士業者が職務に関する賠償保険に入っていたとしても、遺言執行者はその本来業務として受任することになりませんので、おそらく保険の対象にはならないでしょうから、その辺の安全対策も考えておく必要があるのではないかと思っています。
●相続事件の費用
相続事件は、低価格で簡易迅速に対処すべき事件というよりも、被相続人の相続財産という大きな資産を確実に相続人に分配するという点では、ある程度コストがかかっても的確かつ厳正に行われなければなりません。
また、遺言書作成に関する弁護士費用は、相続財産や人間関係の複雑さに応じて金額は変わりますし、事務所によっても基準は異なりますが、私の事務所では、内容が簡明なものであれば5万円から15万円くらい、複雑なものであれば、相続財産の額に応じますが5000万円くらいの遺産総額であればその1%未満の額になります。
その額が高いか安いかは、依頼者の方が判断することではありますが、弁護士に頼むと法外な金額を請求されていると思っている方には、意外な低価格と思われるのではないでしょうか。
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業際問題は、非弁護士取締委員会の前委員長という立場もあって、いろいろと思うところはあるのですが、書きすぎるといろいろとまずいのでこの辺で終了としたいと思います。
次回の「弁護士業界勝手に解説」は、これも弁護士業界が注目している「労働事件」を巡る業界内の動きを解説したいと思います。
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「弁護士業界」勝手に解説-「業際問題」(4) [「弁護士業界」勝手に解説]
●弁護士に依頼しにくい?~費用面
一般の方が、弁護士に事件を依頼することを躊躇する理由の一番に挙げられるのは、「弁護士に頼むといくらとられるか分からない」ということだと思います。以前は「値札のない寿司屋」に例えられたこともありますが、最近では寿司屋でも「時価」と表示することは無くなってきており、弁護士も価格は一般的に表示しています。(依頼前に費用の見積もりを求められたら、見積書を発行しなければならないという弁護士会の規程もあります)
費用の点も弁護士に直接聞けばよいのですが、欧米の著名裁判で弁護士費用として億単位のお金がかかったなどという話を聞いていると、弁護士に相談するだけでも「いくらとられるか分からない」と思ってしまって、相談することも躊躇することになってしまいます。しかし、以前解説したように、弁護士費用は基本的に紛争の価格に比例して決まりますので、そんな著名事件の弁護士費用を請求される事件に遭遇する人はまずいないでしょう。
著名な弁護士に専門分野の相談をするときなどには、稀に高額の相談料を請求されることはあるかもしれませんが、普通の弁護士であれば、1時間1~2万円(あるいはもっと低い金額)の相談料で十分な相談を受けられるはずです。
***マスダのちょっぴり解説***
経済的に恵まれていない人については、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助事業の一環として、法律相談料の補助を受けられます。一定の資力要件を満たせば、同じ事件について3回まで無料で相談を受けることができるのです。(弁護士の側は、相談したということを法テラスに報告して、1回5,000円の相談料を受け取ることになります)
こんな費用面での誤解は、徐々に解消されつつありますが、自分の抱えている問題について「こんなことを弁護士に相談して良いのだろうか」と考えて弁護士に相談することを躊躇する人も少なくありません。
例えば、200万円の貸金を返してもらえないという場合、こんな少額の事件を弁護士は取り上げてくれないのではないかと思い込んで、弁護士に相談することを躊躇してしまう人がいるわけです。
そういう人たちは、もっと気軽に相談できる行政書士や司法書士事務所に電話をすることになる訳ですが、普通に個人相手の事件を取り扱っている弁護士で200万円の貸金事件を、事件単価が安すぎるという理由で断る弁護士はおそらくいないと思います。
相談を受けてみて、実際に依頼を受けるまでに至らない事件はありますが、それは請求を認めさせるだけの証拠が乏しいとか、債権の存在は間違いないが相手が無資力で回収がかなり難しい、相手の所在をつかむ手掛かりがつかめないなどの理由からお断りするということで、それも無理に費用をかけて請求手続をするよりも、請求を断念するほうが相談者のためになるということを総合的に判断してアドバイスを考えた結果なわけです。
弁護士以外の士業者が、「こんな事件は、弁護士さんは受けてくれませんよ」などということがありますが、弁護士が受任しないのは、費用をかけて弁護士に依頼しても、結果として依頼者のためにならない可能性が高いからと思った方が良いでしょう。
以前ご紹介したように、刑事の国選事件は、7万円前後の費用で1件の事件を受任することになりますが、今では、若手の弁護士はそんな事件でも嫌がらずに積極的に取り組んでいます。被害者に会って、被告人に代わって謝罪して被害弁償までやらなければならない刑事事件と比べれば民事の手続の方がストレスも少ないので、民事事件を敬遠する弁護士はほとんどいないと思ってよいでしょう。
●弁護士以外の士業者に依頼するメリットはあるのか?
また、弁護士に依頼せずに他の士業に法的紛争の解決を依頼することは、以前解説したように弁護士法違反で犯罪行為に該当する可能性もあるのですが、それだけでなく、他の士業者に依頼するメリットがあるかという点で考えてみていただきたいと思います。
以前であれば、弁護士の数が少なかったので、目の前の受任済みの業務を処理することに追われていて、敢えて単価の低い事件を受任して自分の首を絞めたくないと思って、小さな事件を断っていた弁護士もいたのだと思います。しかし、今は多くの弁護士、特に登録して間もない若手の弁護士であれば、事件の受任件数自体がかなり減少しているために、この手の小さな事件でも喜んで受任するでしょう。
小さな事件を受任して依頼者から信頼され、次の依頼者を紹介してもらうというのは、いつの時代でも弁護士が顧客を広げる手段の王道です。そんなこともあるので、小さな事件の依頼者の背後には、何人もの依頼者候補者がいると考えて頑張る訳です。
そんな弁護士側の事情を考えると、「こんな事件は、弁護士さんは受けてくれません」という話が実情に合わないということはお分かりいただけるはずです。
●費用面についての比較:債務整理
また、一般的に「弁護士は高い」と思われている点についても、試しに債務整理事件で報酬金額を表示している複数の司法書士事務所の費用額を検索してみましたが、弁護士に依頼したときとそん色ない金額になっていました。
特に、自己破産や個人再生といった事件は、管轄が地方裁判所なので司法書士は代理人になれず、依頼したとしても書類の作成だけの依頼にならざるを得ないので、裁判所とのやり取りは依頼者本人が行う必要があるというのが原則です。当然、その分は金額が異なってしかるべきと思うのですが、この種の事件の費用も弁護士に依頼した場合と異なるところはありませんでした。(弁護士は代理人になるので裁判所との連絡も全て弁護士が受けて処理します)
逆に言うと、同じ金額であれば、破産や個人再生の依頼(あくまでも書類作成の依頼しかできません)をしたときには、司法書士の方が割高になってしまうということなのです。
弁護士は、法的トラブルであれば、資格の上ではほぼオールマイティーに対応できます(もちろん個々の弁護士の能力の問題はありますが。)ので、各種の法的紛争解決メニューの中から依頼者に最も適合した解決策を選択することができますが、その他の士業は、限定された資格しか有していないので、その範囲でしか対応できません。時には、最初に他の士業者に依頼したけれども、問題が訴訟に発展したので弁護士に依頼せざるを得ず、余計な時間と費用が掛かってしまったということも起こり得ることです。
そんなことを考えると、初めからどちらに相談するのが依頼者にとってより良い解決が望めるかは歴然としていると思うのですが、その価値を十分に伝えきれず、もどかしい思いをしている弁護士は少なくないのです。
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次回も業際問題として、他の士業の人たちが注目している相続事件について考えてみます。家庭裁判所の代理人になれるのは弁護士だけですから、本来他の士業者がこのような事件の相談を受けることも問題があるはずなのですが、その辺りのことを整理してみたいと思います。
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